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クロエ エテル編集

「土方さんのために服むんですよ」  と恩に着せたりした。 「お光さん、こんども、それを持って帰ります。あれは効きますから」  薬売りのころのくせで、こんなことを自信をもっていう。いや、歳三自身も、自分の薬は効く、と信じきっていた。諸事、そんな性分の男なのである。  隊士は、選りすぐって二十八人。  十月二十一日未明に近藤屋敷に集結し、江戸を発った。  それより数日前の十四日、将軍|慶喜《よしのぶ》が大政を奉還した、という事実があるが、江戸にいる歳三の耳にまでは入っていなかった。  小田原の本陣できいた。  そのとき、歳三は顔色ひとつ変えず、 「なあに、新選組の活躍はこれからさ」  と、ひとことだけいった。  十一月四日、京都着。  三条大橋をわたろうとすると、前夜からの風雨がいよいよつのって、むこう岸が朦気《もうき》でくろずんでみえた。  歳三は、橋の上に、ぼう然と立った。これほどすさまじい表情の京を、みたことがなかった。 [#改ページ] 剣 の 運 命
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