miumiu 財布2012
null
null「いつも苦労をかけているみたいで、申し訳ない。ところで——フレアは今度はまた、どんなことをしでかしたんだい?」 「いえ、大したことはございません。べつに先日のように、おひとりで舟に乗ってしまわれたわけではありませんから」  公館中の家令までも動員して捜しまわったことを思い出したのか、乳母はおそろしそうにぶるっと身を震わせた。 「ただ、奥方さまのドレスを持ち出されたんです。あれほどお手をふれませんように、と申し上げたのに……」 「母親が五年ぶりで帰ってくると知って、興味をもったんだろうね」  ケアルは書きもの机の下に、ちらりと視線をやりながら笑った。  デルマリナにいるマリナから、帰りますと手紙があったのは、三ヶ月ほど前のことだった。彼女がひとりデルマリナへ、ハイランドの使者として出発してから、そろそろ五年になる。あのとき、ようやく這《は》いはじめたばかりだった双子もつい先日、五歳の誕生日をむかえた。 「私の力がおよびませんで、フレアさまはいたずらばかり……奥方さまになんと、お詫びをしたらいいのかと」 「そんなことないさ。元気ないい子に育ってくれて、私は嬉しいよ」 「そうおっしゃってくださるのは、ご領主だけです。レイズさまはまだ聞き分けもよく、私を気づかってさえくださいますのに、お嬢さまときたら……」  乳母はそう嘆きながら胸をおさえてみせるが、ライス領主の赤毛の娘は、その人なつっこさと明るさで、家令たちはもちろん領民たちからも好かれていた。顔なじみの島人たちは特に彼女には甘く、かれらは公館にやって来るたびに、玩具や菓子を彼女がほしがるだけ与えてしまうのだ。一方の息子レイズのほうは、船や翼に深い興味があるらしく、工房の隅に一日中でも座り込み、職人たちの仕事を見つめている。それをおとなしいととらえる向きもあるが、ケアルは何度か老家令や気むずかしいことで有名な職人たちが、まだ五歳の彼を相手に仕事や政治の話を語って聞かせている光景を目撃した。  どちらもいい子に育ってくれている、というのがケアルの本心だった。 「ああ、とくかくフレアさまをお捜ししなくては……! ご領主、フレアさまを見つけられたら、私にお知らせくださいましね」  そう言って乳母が執務室を走り出ていくと、書きもの机の下から小さな赤毛の頭がぴょんと飛び出した。 「乳母やは、行っちゃった?」  幼い声が訊ねる。ケアルが苦笑をかみころしてうなずくと、小さな娘は父の膝の上によじのぼってきた。 「フレア。母上のドレスを、いたずらしたんだって?」 「いたずらじゃないもん。ちょっと着てみたかっただけだわ」