收藏

クロエエデンショルダー編集

 葉も腹を立てていた。ツネコおばさんはどうしていつも意地悪なんだろう、と彼女は思った。自分が寝ている間に、色々ひどいことを言ったに違いない。  彼女が口を開きかけた時、ツネコがぽつりと言った。 「あの子、いい子だね」 「えっ」  葉は自分の耳を疑った。 「ちょっと掃除《そうじ》させたんだけど、てきぱきこなしてたわ。そこそこ礼儀《れいぎ》正しいし、食事のマナーも悪くない。見た目はボーっとしてるけど、大事なところではちゃんと度胸も据《す》わってるし」  ツネコはなにかを思い出したように、くすっと笑った。彼女がこんな風に人を誉《ほ》めるところを見たのは初めてだった。驚《おどろ》きのあまり、気がつくと葉《よう》の怒りはしぼんでいた。 「ねえ、あんた、人助けに来たんだって?」  と、ツネコが尋ねる。 「あの子がそう言ったんだけど」  葉は顔を赤くした。 「他《ほか》になにか言ってた?」 「それだけ。後は言えないって。人助けって本当のこと?」  葉はかすかに頷《うなず》いた。  飯倉志乃《いいくらしの》が死んだ時、葉は裕生《ひろお》に「カゲヌシにとりつかれている人たちを助けたい」と言った。しかしそれは、人助け、というほど大げさなものではない気がする。志乃を助けられなかった後悔を埋めようとしているだけかもしれない。なんにせよ分かっているのは一つだけだった。 「わたしにしか、できないかもしれないから」  ふと、かすかに嘲笑《ちょうしょう》が聞こえた気がした。ツネコからではない。彼女の心の中の「黒の彼方《かなた》」の声だ。葉は聞こえないふりをした。 「あんたのことだから、どうせ聞いたって話しゃしないと思うけど」
表示ラベル: