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null「……ある」と肯定《こうてい》しながら更《さら》に一歩、摺《す》り足で寄る。包丁の他《ほか》に、灯籠《とうろう》が似合いそうな挙動だ。あな恐ろし。  というか、包丁は止《や》めろよ。僕のポイントが溜《た》まるだろ。 「随分《ずいぶん》と落ち着いてるんだね」妹が顔の素材の中で、唇《くちびる》だけを作動させる。 「場数を踏んでるから」  健忘症《けんぼうしょう》の殺人|鬼《き》と戦ったり、甘えん坊《ぼう》な元人殺しと同棲《どうせい》したり。  それに、にもうと殿《どの》も物腰《ものごし》が定まっておられるご様子で。  人を殺すことには、手慣れてらっしゃられるとか? 「どういう意味で、僕を殺す?」  動機は何だ。心当たりが、曖昧《あいまい》に存在するだけで実体化しない。  母親のことか。僕自身への嫌悪《けんお》か.殺人の目撃《もくげき》者を払拭《ふっしょく》する為《ため》か。  妹は目を逸《そ》らさない。瞬《まばた》きも、捷毛《まつげ》の震《ふる》えもない。妹は迷わず、そして、 「あたしにも正直、区別ついてない」オイ。「だから、少し試《ため》してみた」一歩、迫《せま》ってくる。  妹の包丁と僕の腹は、間柄《あいだがら》が急速に迫っている。ドアノブにかかっていた筈《はず》の手は、いつの間にか外れて振《ふ》り子《こ》のように宙を揺《ゆ》れていた。妹が本気に目覚めれば、逃亡《とうぼう》することは既《すで》に不可能だろう。  残された手立ては、抵抗《ていこう》か、甘受《かんじゅ》か。  死人に殺される死人モドキという構図を、確立させるのか。  ……はっ。心の鼻で笑うというこの高等技術。嘘《うそ》だけどよ。 「ちょっと待て」  手の平を突《つ》き出し、少女と刃物《はもの》を制止させる。