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chloe sam編集

 とりとめもなく、そんなことを思った。 (六千万円なんて大金、何に使おうかしら)  そう思った時、翔子の中を黒い不安が掠《かす》めた。 (もしかしたら幸佑は、誰かを受取人として、やはりそれぐらいの生命保険にでもはいっていたのじゃないかしら……?)  なんとなく、どきっとする思いつきであった。  そういえば、夫の交通事故には他殺の疑いがある、というニュアンスのことを谷津から報告を受けたことがあるが、あの捜査はどうなっているのだろうか。他殺だとすれば、誰かが保険金をかけて、狙ったということは考えられないだろうか。  翔子は窓ガラスの外の鋪道を流れる午後の人波を眺めながら、ぼんやりとそんなことを考えつづけた。  翔子が薬局とデパートと花屋に寄り、幾つかの買い物をして車で麻布の家に戻ったのは、午後四時であった。 2  家のまわりには夕暮れ前の陽射しが落ちていた。  翔子は裏のガレージに車をしまい、柊《ひいらぎ》と薔薇《ばら》の垣根の傍を通って、玄関のほうに歩いた。  キイをまわしてドアをあけた時、家の中で何かがカタン、と倒れる音がして、翔子は心臓がどきんとした。 「誰……? 誰かいるの?」  声をかけたが、家の中はしんとしていた。  家を出る時、戸締まりはしたはずなので、誰もはいっているはずはなかった。翔子はそれでもしばらく玄関のところに佇《たたず》み、様子を窺《うかが》い、家には誰もいないことに安心して、やっとショッピングバッグや買い物をしてきた荷物を、リビングまで運んだ。
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